白髪の原因とメカニズム解明!黒髪のもとメラニンを作る色素細胞とは
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2020/05/26
白髪の原因とメカニズムを浮きぼりにする「毛髪の科学(全4回シリーズ)」、第3回目は色素メラニンが作られる色素細胞を、深く掘りさげます。
黒髪のもとである色素メラニンが色素細胞で作られ、毛髪に運び込まれて、やっと毛髪は黒髪となります。かなり核心に近づいてきた感じです。
まずは、これまでの要約から。
- 色素とは、特定の色の光を反射して、それ以外の色の光は吸収する物質。
- 黒色の色素が多い黒髪は光をすべて吸収するので、髪が黒く見える。
- 色素がなくなった白髪は光をすべて反射するので、髪が白く見える。
詳しくは、以下のリンクからご覧ください。
⇒ 白髪の原因とメカニズム解明!メラニン色素で黒髪に見える理由とは?
- メラニンは微生物からヒトまで、全生物の体内に存在する色素。
- メラニンには、「黒色のユーメラニン」と「黄色のフェオメラニン」がある。2種類の混ざり具合で、黒髪や金髪などの色が決まる。
- メラニンを作ることができるのは、色素細胞(メラノサイト)のみ。
- 「黒髪のもとユーメラニン」は、「紫外線」と「紫外線によって生じたフリーラジカル」を吸収して、細胞を「さびつき(DNAの損傷による光発癌)」から守っている。
詳しくは、以下のリンクからご覧ください。
⇒ 白髪の原因とメカニズム解明!紫外線とメラニンの関係やチロシンとは
最終的な目的は、「白髪の原因」を特定すること。要するに、どこをどうすれば白髪が黒髪にもどるのか、はっきりさせたいわけです。
世間に流通する情報に頼っていても、効果があるのかないのか、さっぱり分かりません。全4回で、完全に決着をつけてしまいます。
目次
白髪の原因とメカニズム~色素細胞メラノサイトとは
白髪の原因とメカニズムにおける、中心的な存在ともいえる色素メラニン。黒髪のもと色素メラニンは、色素細胞(メラノサイト)で作られますから、まさにターゲットのど真ん中に来たわけです。
ならば最初に頼るのは「医学大辞典」、さっそく開いてみます。
出展:南山堂 医学大辞典 表紙
出展:南山堂 医学大辞典
2420ページ
まず、メラノサイトの日本語名が、「色素細胞」です。当サイトで「色素細胞」という言葉を多く使う理由は、2つあります。
理由の1つ目は、参考文献のうち論文的なものには、半世紀以上も前から使われている「色素細胞」という言葉を使うほうが多いこと。
理由の2つ目は、色素細胞を作り出す細胞の名前が、「色素幹細胞(詳しくは、最終回で)」であることです。
「メラノサイトを作り出す色素幹細胞」と表現するよりも、「色素細胞を作り出す色素幹細胞」のほうが流れ的にスムーズな感じがします。
白髪の原因とメカニズム~色素を作る色素細胞
白髪の原因とメカニズムを明らかにするため、医学大辞典の難解な文章に慣れてきた感もあります。色素細胞(メラノサイト)の解説は、手ごわいのでしょうか。
医学大辞典には、
ヒトにおいてメラニンを合成する性質をもつ唯一の細胞で、表皮、毛球部、網膜、脈絡膜、口腔、食道、直腸などの粘膜、髄膜に分布する樹枝状の細胞である。
身体の部位により数に差があり、顔面には多いが腹部や臀部には少なく、手掌足底には存在しない。
細胞内の膜小器官であるメラノソーム内でメラニンを合成して、それを表皮細胞へ転送することで、皮膚や毛髪に色調を与える役割を果たす。
人種による分布や数の差はみられず、皮膚色の違いは成熟したメラノソームの量による。メラノサイトの数は、加齢とともに減少する。
メラノサイトは、その幹細胞が毛包の立毛筋付着部付近に存在し、毛球部や表皮に成熟メラノサイトを供給するが、加齢とともに幹細胞も分化してしまい、白髪などを生じることが知られている。
メラノサイトが悪性化したものが、メラノーマである。
と書かれています。
この解説は、なんとなく全体的に理解できます。理解どころか、むしろ知識が増えて得した感じです。人種によらず、色素細胞(メラノサイト)が存在しない「手のひら」や「足の底」は、白いのですね。
内容を要約すると、以下のようになります。
- 「色素のメラニン」を作ることができる細胞は、色素細胞(メラノサイト)だけで、全身に分布する。
- 色素細胞(メラノサイト)は、「手のひら」や「足の底」には存在しない。
- 色素細胞(メラノサイト)という細胞の中に、メラノソームという、「うすい膜」でおおわれた器官(細胞より小さい)がある。
- メラノソームの中でメラニンが作られて、メラノソームごとメラニンが肌や毛髪に送り出されて、色がつく。
- 色素細胞(メラノサイト)という細胞は、人種によって分布や数は変わらない。
- 皮膚の色が異なるのは、メラニンが入っているメラノソームの数が違うから。
- 色素細胞(メラノサイト)の数は、年を取ると減っていく。
ここから先には「幹細胞」という言葉が登場するので、次回の説明にします。色素細胞(メラノサイト)が色素メラニンを作ることは分かった、じゃあ色素細胞(メラノサイト)を作るのは誰だという話です。
どこまでさかのぼるのか、心配になるかもしれませんが、次回で終わりですから安心してください。
この辺で医学大辞典を離れて、視覚的に分かりやすくしてみましょう。
白髪の原因とメカニズム~色素細胞のイメージ
「白髪の原因とメカニズム」ということで、やや息苦しい解読作業が続いてしまいました。色素細胞をイメージ(絵)でとらえると、どんな感じなのでしょうか。
Fragrance journal 2014年 3月号に投稿された論文で、東北大学大学院 生命科学研究科の大林典彦・福田光則 両氏による「メラノソームの微小管逆行輸送機構~白髪予防の新たな分子標的」。
内容はとても難解で、何度読んでも分からない部分のほうが多いです。ところが、「白髪の原因」を知るために重要な内容を、読み取ることができます。
出展:FRAGRANCE JOURNAL
2014年3月 表紙
出展:FRAGRANCE JOURNAL
2014年3月 30ページ
医学大辞典で「樹枝状の細胞」と表現されていた色素細胞(メラノサイト)、この絵によってそれがよく分かります。
色素細胞(メラノサイト)や毛母細胞の中に、散らばっている黒い点がメラノソームで、1つ1つは「うすい膜」でおおわれているようです。
色素細胞(メラノサイト)とは、遺伝子などが格納される「核」を持つ細胞。
それに対してメラノソームは、もはや細胞ではなく、細胞よりも小さな1器官です。かなりミクロな世界まで、やってきた感じ。
次は、メラノソームの中で色素メラニンが作られる、化学反応の中身です。
出展:南山堂 医学大辞典 1645ページ
「律速酵素」とは、その反応の中で最も鍵になる酵素という意味です。
また、「眼皮膚白皮症」は「先天性白皮症」ともいい、生まれた時から全身の皮膚が白い症状が現れます。
メラノソームの中にはチロシナーゼという酵素があり、タンパク質の1種であるチロシンに作用して、チロシンに変化をうながします。
チロシナーゼが作用するのは、「チロシン → DOPA(ドーパ) → ドーパキノン」まで。
あとはドーパキノンが自分でどんどん自動的に変化していき、最後は黒髪のもと「黒色のユーメラニン」となります。
ドーパキノンが「黄色のフェオメラニン」になる経路は、黒髪のもとであるユーメラニンとは異なります。
当サイトは日本人の白髪がテーマなので、追いかけるのは「黒髪のもとユーメラニン」だけです。
- このようにして作られた「黒髪のもとユーメラニン」は、メラノソームの中に貯蔵され、
- 「黒髪のもとユーメラニン」が、貯蔵されているメラノソームごと、隣の毛母細胞まで運ばれ、
- その毛母細胞が分裂して毛髪になることで、運ばれてきたユーメラニンが毛髪に入り込んで、黒髪になる。
という経路をたどることになります。
白髪の原因とメカニズム~色素細胞から毛髪までの輸送システム
白髪の原因とメカニズムを明らかにするためには、色素メラニンを作るところだけ掘りさげても、充分ではありません。色素メラニンが、色素細胞から毛髪に届けられてはじめて、黒髪となるからです。
黒髪のもとを運ぶ輸送システムとは、どのような仕組みになっているのでしょうか。
色素細胞(メラノサイト)には、メラノソームを運ぶための「3つの輸送システム」があります。
「3つの輸送システム」とはメラノソームを、「核から細胞周辺へ向かう、外側に向けた運動」「細胞周辺から核へ向かう、内側に向けた運動」「外側の細胞周辺から細胞膜(細胞の一番外側にある壁)にたどりつく運動」です。
細胞膜にたどりついたメラノソームは、隣の毛母細胞に受け渡されます。
そして毛母細胞が分裂して毛髪が伸びていけば、毛母細胞の中にあるメラノソームも毛髪の中に入り込んで、黒髪になるというわけです。
3つの輸送システムのバランスがくずれてしまうと、メラノソームが毛母細胞にたどり着くことができません。
そうなると、メラノソームの中で「黒髪のもとユーメラニン」ができたとしても、黒髪にはならないのです。
この点に論文は着目しています。
3つの輸送システムに影響を与える要因は分子レベルで判明しており、輸送システムを人為的に操作するという実験も行われました。
「内側に向けた運動」を強めると、写真左のようにメラノソームは核のまわりに集まります。
右の写真2つは逆の実験で、毛並みの白いマウスを使っています。白髪ですから、メラノソームは核のまわりに集まったままです(写真右2つのうち左側)。
「外側に向けた運動」を強めてあげると、一番右の写真のようにメラノソームは散らばっていきます。
出展:FRAGRANCE JOURNAL 2014年3月 32ページ
この論文で指摘されている2つの点が、たいへん興味深いところです。
- 肌の美白維持のために、「黒色のユーメラニン」の合成や輸送を止めるための研究開発は行われている。いっぽうで、逆にメラノソームの輸送を促進するといったコンセプトでの研究は、進められていない。
- メラノソーム輸送の促進をターゲットにすれば、白髪防止・予防薬の開発も期待できる。
白髪の原因とメカニズム~まとめ
最後に「白髪の原因とメカニズム」を理解するために、ここまでに分かったことを整理してみます。これまで、黒髪の素である「黒色のユーメラニン」の経路を追いかけてきました。経路のどこかが絶たれたら「黒髪のもとユーメラニン」は頭髪にたどりつきませんから、白髪になります。
「黒髪のもとユーメラニン」の経路が絶たれることこそ、「白髪が増える本当の原因」です。
経路の絶たれる仕組みが解明され、復旧する方法が開発されれば、黒髪を取り戻すことも可能になるはずです。
【白髪の原因1】
黒髪のもとである色素(ユーメラニン)を作り出している、色素細胞(メラノサイト)が減った、またはなくなった。
【白髪の原因2】
色素細胞(メラノサイト)の中で実際に色素(ユーメラニン)を作っている、メラノソームが減った、またはなくなった。
【白髪の原因3】
メラノソームの中で、黒髪のもとである色素(ユーメラニン)が、作られなくなってしまった。
【白髪の原因4】
メラノソームの中で、黒髪のもとである色素(ユーメラニン)は作られたが、その色素が毛髪まで運ばれなくなってしまった。
黒字部分の出展:FRAGRANCE JOURNAL 2014年3月 30ページ
(赤字部分は当サイトによる)
第4回目(最終回)は、いよいよ幹細胞(色素細胞を作る大親分)に切りこみます。詳しくは、以下のリンクからご覧ください。
⇒ 白髪の原因とメカニズム解明!毛包幹細胞が色素系に送るシグナルとは
【発表】
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